デジタルカメラやスマートフォンで動画を撮ったり、高速で動く被写体(電車、ゴルフのスイング、ドローンのプロペラなど)を連写したりした際、「なぜかまっすぐなものが斜めに歪んで写ってしまう」という奇妙な現象に遭遇したことはありませんか?
この現象こそ、現代のデジタルカメラの多くが抱える構造的な課題、**「ローリングシャッター現象」**です。
しかし近年、この問題を根本から解決する**「グローバルシャッター」**を搭載したカメラが登場し始め、写真・映像の世界は新たな局面を迎えようとしています。
本記事では、ローリングシャッターの原理と弊害、そして次世代技術であるグローバルシャッターがもたらす革新的なメリットについて、初心者にも分かりやすく徹底解説します。
はじめに:なぜ速く動くものは「歪む」のか?
ローリングシャッター現象は、映像クリエイターの間では**「ジェロー現象(Jello Effect)」**とも呼ばれ、以下のようないくつかの特徴的な歪みを生じさせます。
- 斜めの歪み: 垂直なものが斜めに傾いて写る(例:高速で横切る電柱)。
- 部分的なズレ: 扇風機やドローンのプロペラが曲がって見えたり、UFOのように歪んで見えたりする。
- 露光のムラ: 一瞬のフラッシュ撮影をした際、画面の一部だけが白く写る。
これらはすべて、カメラのセンサーが**「一瞬」ではなく、「時間差」**をかけて像を記録しているために起こる現象です。
ステップ1:ローリングシャッターの仕組みと弊害
現在、市場に出回っているほとんどのミラーレス一眼やデジタル一眼レフの動画・連写モード、そしてスマートフォンのカメラは、**「ローリングシャッター方式」**を採用しています。
1. 「行単位」で読み出す仕組み(走査線方式)
ローリングシャッター方式のセンサーは、光を捉える**「露光」と、電気信号に変換してメモリに送る「読み出し」の作業を、センサーの上から下へと一行ずつ、時間差を伴って**行います。
例えるなら、上からゆっくりと降りてくるスキャナーのようなものです。
- センサーの上端(一行目): 露光開始 → 読み出し開始
- センサーの中央: 上端の読み出し中に、露光と読み出しを行う
- センサーの下端(最終行): 上端の読み出しがほぼ終わった頃に、露光と読み出しを行う
この「上から下まで読み出しを終えるまでの時間差」(約1/30秒〜1/100秒程度)が、写真や映像に大きな影響を及ぼします。
2. ローリングシャッター現象の主な弊害
弊害① 映像の「歪み」(ジェロー現象)
被写体が速く動いている、またはカメラを横に速く振った(パンした)とき、上と下では撮影された瞬間に時間差があるため、画像が以下のように歪んでしまいます。
- 傾斜: 横に速く動く被写体は、読み出しの遅れにより斜めに傾いて写る。
- 圧縮/伸張: 垂直方向に動く被写体は、読み出し中に移動することで圧縮されたり、伸びたりして写る。
弊害② フラッシュ・ストロボ撮影との相性の悪さ
決定的な問題の一つが、フラッシュやストロボ撮影です。フラッシュはごく一瞬だけ強く光りますが、ローリングシャッターはその光が一瞬で終わった後も、センサーの読み出しを続けます。
その結果、フラッシュが当たった瞬間の情報(白く明るい部分)はセンサーの一部(読み出し中だった行)にしか記録されず、写真や映像の一部だけが白く光った、奇妙なムラのある画像になってしまいます。
ステップ2:問題を解決する「グローバルシャッター」
ローリングシャッターの抱える根本的な問題(時間差)を解決するために開発されたのが、**「グローバルシャッター方式」**です。
1. 「全画素同時露光・同時読み出し」の仕組み
グローバルシャッターは、メカニカルシャッターと同じように、センサー上のすべての画素(ピクセル)が同時に露光を開始し、同時に露光を終了します。
そして、その露光が終了した瞬間に、すべての画素の情報をセンサー内部のメモリ領域(蓄積部)に一斉に転送します。これにより、すべての画素が**「同じ時間軸」**の情報を捉えることが可能になります。
例えるなら、一瞬で全体像をコピーする高性能なコピー機のようなものです。
2. 技術的な難しさと課題
原理はシンプルですが、グローバルシャッターの実現には高い技術的ハードルがありました。
- データ処理の爆発的増加: 全画素のデータを一瞬で処理し、蓄積する必要があるため、センサーとプロセッサーに高い処理能力が求められます。
- 画素構造の複雑化: 各画素に蓄積用のメモリ回路を組み込む必要があるため、画素構造が複雑になり、従来のセンサーに比べて光の取り込み効率がわずかに低下したり、ノイズが増えやすくなるという課題がありました。
しかし、近年はセンサー技術の進化(積層型センサーなど)により、この画質的なデメリットを克服した高性能なグローバルシャッター機が登場し始めています。
ステップ3:グローバルシャッターがもたらすメリット
グローバルシャッターは、特に動画・連写撮影を行うクリエイターにとって、表現の制約を大きく取り払ってくれます。
メリット① 高速移動体の「歪みゼロ」
最も大きな恩恵は、高速で動く被写体や激しいカメラワークを行った際にも、一切の歪みが発生しないことです。
- 飛行機のプロペラが正確に回転している状態。
- ゴルフボールが打たれた瞬間の形状が歪まない。
- 自動車が高速で目の前を横切っても、車体が垂直に写る。
これにより、プロフェッショナルな現場、特にVFX(視覚効果)処理を前提とした撮影や、正確な記録が必要な産業用途での利用価値が飛躍的に高まります。
メリット② フラッシュ同期速度の制限がなくなる
従来のカメラでは、ローリングシャッター現象を避けるため、フラッシュが完全に画面全体をカバーできる特定のシャッタースピード(同調速度、通常1/125秒〜1/250秒程度)以下でしか使えませんでした。
グローバルシャッターでは、全ての画素が一斉に露光されるため、理論上、どんな高速シャッタースピード(例:1/8000秒)でもフラッシュを問題なく使用できます。これにより、日中の屋外で背景を暗く落とし、被写体だけをストロボで強調するなどのハイスピードシンクロの制約が大幅に緩和されます。
メリット③ 精度の高いスローモーション撮影
スローモーション撮影は、シャッタースピードを速くする必要があるため、ローリングシャッターによる歪みが出やすい分野です。グローバルシャッターなら、高フレームレート(例:120fps、240fps)の動画を撮影しても、残像感や歪みのない、正確な時間軸を捉えたクリーンな映像が得られます。
ステップ4:ローリングシャッター機材で歪みを抑えるテクニック
グローバルシャッター機材がまだ高価である現在、多くのユーザーはローリングシャッター方式のカメラを使っています。この方式でも、工夫次第で歪みを最小限に抑えることは可能です。
1. 「速いシャッタースピード」を使う
ローリングシャッターの歪みの原因は「読み出しに時間がかかること」です。シャッタースピードを速く設定する(例:1/1000秒以上)ことで、露光の総時間を短くすることができます。
露光時間が短くなれば、上端と下端の「露光開始」のタイミングの差も縮まり、歪みが目立たなくなります。動画ではシャッタースピードをフレームレートの2倍(例:24fpsなら1/50秒)に固定することが多いですが、歪みを抑えたい場合はあえて高速シャッターを選ぶのも一つの手です。
2. カメラの「パン(横振り)」をゆっくり行う
カメラを左右に動かす「パン」動作を速く行うと、背景が歪んでしまいがちです。撮影中は、極端に速いパンを避け、ゆっくりと滑らかにカメラを動かすことを意識しましょう。
3. 被写体との距離を調整する
動いている被写体がフレームの中で占める割合を小さくする(ズームアウトする、または距離を取る)と、歪みそのものは発生していても、視聴者が気づきにくくなります。
まとめ:グローバルシャッターは「映像表現の基準」を変える
グローバルシャッターは、一部のハイエンドなシネマカメラやプロ機に限定されていましたが、技術の進歩と共に、ミラーレス一眼にも搭載される機種が増えてきています。
これは、単に技術的な欠点を補うだけでなく、**「歪みのない世界」**での映像・写真表現を可能にする、新しい撮影のスタンダードを築く技術です。
高速撮影や複雑な照明環境での撮影を多く行うクリエイターにとって、グローバルシャッターは、これまでの**「仕方ない」**と諦めていた制約から解放され、より創造的で精度の高い作品を生み出すための、強力な武器となるでしょう。
写真と映像、ガジェットも好きな人。必死に生きることは目分量。